甘い涙

 そこへちょうど、委員会が終わったのか、碓氷くんが教室へ入ってきた。
 右手を上げた姿勢のままバッチリ目が合ったのに、真顔でスルーされてしまった。
 ━笑われるより、無視の方が恥ずかしい━。
  ━そうだった。
 碓氷くんにも迷惑掛けた事思い出し、
 「食堂では迷惑掛けて、ごめんなさい。
 後片付けしてくれて、ありがとう。」
 とおじぎをするが何の反応もない。
 恐る恐る顔を上げると、声を殺して笑っていた。
 碓氷くんでも、こんなに笑うんだ。
 私が驚いた顔をしていると、
 「帰らないの?」
 と聞いてきた。
 「━杉崎くんを待ってて…。」
 前の席にはまだカバンが置いてあった。
 「…あぁ、コウなら図書室じゃないかな。」
 「…図書室?」
 「誰かさんの為に、調べたい事があるって言ってたからな。」
 ━誰かさん…?
 「ふ~ん…。」
 私は分かったような、分からないような曖昧な返事をしている間に、碓氷くんは、塾があるとかでさくさく帰ってしまった。
 ━図書室か…、行って見ようかな。
 ここで待っていても暇なので行ってみる事にした。