甘い涙

 ランチはとてもおいしかった。
 3人で話が盛り上がり、私はほとんど聞き役だった。
 でも、体育会系で遠慮や気配りとは縁遠いと思っていた五十嵐くんが、本当は気配り上手で頭の回転が速いと分かり、少なからず驚いた。
 ━そういえばこの人も杉崎くんの仲間だもんな~。
 妙なところで納得してしまった。
 そんな事を思いつつ
 「ごちそうさま。」
 と手を合わせた瞬間、食堂の後から、ガシャーンと食器が散乱する音と同時に怒鳴り声が響いた。
  ━びくっ。
 「何やってんだ?」
 「あー、ありゃぁ痴話喧嘩だな。」
 「また派手にやってるな。」
 皆の会話が遠くに聞こえる。
 喧嘩の声に、忘れようとしていた日々が蘇ってくる。
  ━嫌だ…。
   ━嫌だ…。
    ━やめて…。
 体中の血の気が引いていく。
 手や額に脂汗がにじんでくる。
 ドクン、ドクン鼓動が激しくなる。
 頭の中がガンガン鳴り響く。
 震えが止まらない。
 目の前が薄暗くなる。
 両手を握り締め、気が遠くなるのを必死に耐える。
 「鈴木さん、大丈夫?」