甘い涙


 やはり食堂は苦手だ。
 人が多すぎる。
 おばちゃんの威勢のいい声、生徒達のざわめき、食器のふれ合う音。
 話しかけられても何も分からない。
 呆気にとられ、人波に流されそうになった私の手を掴むと、杉崎くんは空いているテーブルに着かせてくれた。
 「ここの席4つ取ってて。」
 と言い置いて、人だかりの中へ行ってしまった。
 ━皆の視線が…恐ろしいくらい痛い…。
 しばらくすると、ランチを乗せたお盆を2つ器用に持って杉崎くんがやって来た。
 ━高級レストランのウエーターみたい…。
 私の前にランチを置くと、左隣に座った。
 「…ありがとう…。」
 と言い、ランチ代を払おうとすると
 「鈴木さん、払わなくっていいぞ。
 コウが誘ったんだろ。」
 と、五十嵐 達也くんが私の前に座りながら言った。
 「そうそう、コウにおごらせておけばいいよ。」
 五十嵐くんの隣に座りながら碓氷くんも賛同する。
 「…お前らなぁ~。
 お、今日のランチも旨そう。」
 杉崎くんは、2人と別の話題をしながら食べ出してしまった。
 払い損ねた私は、話題を蒸し返す事も出来ず、後でちゃんと払おうと心に決めて
 「いただきます。」
 と手を合わせた。