甘い涙

 ━暗くなった?
 良い香り。
 「どこか具合悪いの?」
 高すぎず、低すぎず、優しく、ほんの少しハスキーな、私にはたまらなく好きな声が、耳に息がかかりそうな距離から聞こえた。
 あまりに好きすぎる声だったので、夢の中と思いそっと目を開けると、超キレイな顔のドアップが逆さまにあった。
 ━やっぱ夢か…。
 どんなアングル、どんなアップでも綺麗なものは、綺麗なんだ。
 フワフワと考えていたら…。
 「大丈夫?」
 キレイな顔が心配そうになり、いい声で尋ねてきた。
 ━教室がえらく騒がしい。
 ━何キャッ、キャッ言ってるんだろう…。
 思ったところで、はっと現実に戻された。
 はっきり目が覚めても、キレイな顔はそこにあった。
 杉崎くんが私の机の前に立ち、私に覆いかぶさる様にして私の顔を覗き込んでいたのだ。
 急に暗くなり、良い香りがしたのは杉崎くんだったのか。
 それに、杉崎くんの声ってこんなに良い声だったんだ。
 ちっとも気付かなかった。
 でも、ちょっと待って、この体勢、私身動き取れない。
 私が頭を上げると、杉崎くんの胸に頭突きをしてしまう。