「最近流行りだしたドラッグの流出源、港町のG7の倉庫らしくてな……」
「あくまで"らしい"な訳か……」
「せや、証拠がないから現行犯逮捕しか方法はない」

エレベーターの中で任務の詳細を聞かされる華南。
「面倒だな……」と心底嫌そうな顔をするものの仕方がない。
これが自分たちの任かされた仕事……宿命とでも言うべきなのだろうか。

「相手の数とか……把握できてるのか?」
「いや、そのへんの情報がイマイチでな……ついてから調べるしかないわ」

チンッという音と共に開かれたエレベーターの扉。
薄暗いその箱の中と違い、ロビーは予想以上にまぶしかった。
少し目を細めてロビーに出る2人に行きかう人々が軽い挨拶をなげる。
その全てに愛想よく笑って返す靖也とは対照的に華南はほぼ無視に近かった。

「靖也さん! この間はお疲れ様でした」

にっこりと笑いながら2人のもとにかけ寄って来た青年。
靖也の3つ下で華南と同じ歳である金岡 蓮は朝からご機嫌だった。

「あぁお疲れ。蓮もようやってくれたからなぁー」
「いえ、靖也さんの指示が良かったんですよ」

動かしていた足も止めて本格的に会話を始めてしまった靖也と蓮。
おい、靖也……仕事。と、華南は上目で睨み上げながら会話を中断させる。
腕を組んでブスッとしたその表情が明らかに「早くしろ」と言っている。
はいはい。と笑いながら靖也は蓮と別れを告げた。

「ごめんな。今から出なアカンねん」
「あっ俺……足止めしちゃってすみませんでした」

ええよ、またなー。
と、蓮に背を向けた状態でヒラヒラと手をふって玄関の方へ向かう靖也。
そして、やはり靖也とは対照的にフイッと蓮を一睨みする形で華南は去っていった。

「頑張って下さいね、靖也さんも水城さんもっ!」

叫びに近かった蓮の声が届いたのか少しざわついたロビーに「ありがとぉ」と靖也の返事が響いて消えた。
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