『10月、地震と二人の運命』
注釈(場面は変わって、翌日の夕方6時頃の静かなレストランで二人は会っている。)
フミヨ「あそこの事務所も辞めたのよ。このごろ色々あってね。」
栗矢「所長さんから聞いたよ、君がいたから助かったって、今は忙しそうだけど。」
フミヨ「話しってなぁに?」
栗矢「実は、実家に戻ることになってね。先代が他界して、もう2年になる。あとは父が襲名する事になるけど、僕も跡継ぎだから窯の仕事を手伝って欲しいって、さいきん親に言われてね。」
フミヨ「実家に戻るの?もう決まったの?そうか、そうだよね、跡継ぎだから当たり前よね。当たり前よね。」
ナレーション「フミヨは栗矢の事を自分に言い聞かせるように、繰り返しつぶやいた。」
栗矢「戻る前に、ドイツに行かなければいけなくなって、近い内に旅立つことになる。肩書きは陶芸の講師助手だけど、1年か2年助手の仕事をして、経験を積んで欲しいのが実家や親戚の狙いらしい。後援会の方も後押ししているから、そう簡単に断れなくなってしまった。」
フミヨ「後援会なんてあるの?すごい。だんだん遠い所に行くのね。」
栗矢「ああ、ドイツは遠いよ。」
フミヨ「そうよね、アメリカにあるのよねドイツは!・・・もう私ってヤーネー」
栗矢「ヨーロッパだよ、ドイツは。2年は長いけど、会えなくなる。」
フミヨ「ドイツから戻ったら、またこっちに帰ってくるの?」
栗矢「いや、窯の仕事をするから、こっちには戻らないと思う。だから最後の思い出にと思って食事に誘った、待っていてくれと言いたいけど、富美ちゃんの気持ちを聞いて於きたかった。」
フミヨ「それって、もしかしたら告白のつもり?」
栗矢「・・・言いにくいかな。」