注釈(残された栗矢の、携帯電話が鳴りだした。ポケットから取り出すが、すぐに切れてしまう。フミヨが乗ったタクシーは、父親が入院している市民病院に到着した。病室の扉を開けると、フミヨの父冨士男と母美子がいる。)(コンコン)ドアをノックする音。
フミヨ「どうしたの?まだ起きるのは早いわよ!静かに寝ていないと。」
冨士男「ウウー」
美子「何度も起きようとするのよ。」
フミヨ「先生は知っているの?」
美子「先生から、そろそろリハビリを始めてくださいって言われてね。だから始めたみたいだけど、麻痺した手が動かないのに、起き上がろうとするのよ。」
フミヨ「そうなの、でも急には無理よお父さん。ずっと寝ていたから、体はすぐに動かないわよ。」
冨士男「・・・・・」
美子「まだ言葉をうまく話せないから、そんなに言わないで、父さんも判っているから動かそうとしているのよ。」
フミヨ「お花を貰って来たから、生けてくるわ。」
美子「黒木さんの挙式は、どうだったよかったかい?」
注釈(美子はフミヨの後を追って、流し場までついてきた。富士男の看病より挙式の方が気になる様子だ。)
フミヨ「うん、純白のウエディンドレスと着物の内掛けが、交互に4回も衣装替えでね。最後は赤と青のウエディングドレスで、お見送りをしてくれたわ。」
美子「料理はどんな物が出たんだい?珍しい物がたくさん出たのだろうね。」
フミヨ「それは、それは、とってもおいしかった。包んで貰ったから、開けて食べる?」
美子「じゃ持って帰る、父さんには目の毒だから、天ぷらとかトンカツとか油物でしょうからね、体に悪いし。」
注釈(二人で病室に戻る。)