ママよう子「ほら、この裏をよく見て、これも、これも、お盆のあいだは会えないから、栗ちゃんの名前を書いていたのよ。」
栗矢「・・・」
ママよう子「何とか言いなさいよ!ちょっと待っていてね。」
注釈(ママよう子は、ヒロミに耳打ちして奥へ引っ込んでしまう。そのあと、落ち着きを取り戻したフミヨが、奥から出て来る。)
フミヨ「・・・」
栗矢「ビール、・・・」
注釈(黙っていた栗矢が、ビールを注文すると、フミヨは返事もせずにコップを1個カウンターに出して、ビールの栓を抜いた。)
栗矢「一緒に飲もう。」
注釈(フミヨが持ったビール瓶を、栗矢は両手で彼女の手を包み、その瓶を取るとフミヨにコップを渡した。)
フミヨ「いいの?」
注釈(栗矢がうなずいて、ビール瓶を傾けるとコップの中で勢いよく泡が立った。フミヨがいっきに飲み干して、今度は栗矢がコップを受け取ると、フミヨがビール瓶を傾けた。奥でママよう子とヒロミが息を殺して一身に見ていた。)
ヒロミ「見た、ママ。」
ママよう子「まるでドラマみたい、三々九度かしら。」
注釈(その言葉に、ヒロミは怪訝な顔をするが、ママよう子の目は光を放った)
ナレーション「フミヨは、コップに注がれたビールが無くなるのがいやだった、時間がこのまま止まって欲しいと思った。栗矢が自分の前から突然姿を消しそうで、そう思うと堪らなく涙が出てきた。栗矢はそんなフミヨに翻弄されながら、自分の秘密を打ち明けられないでいた。」
栗矢「そう言えばお土産があった。」