心詩 ー モウイチド、モドレルノナラ ー






そんな簡単に忘れるような用件だったの?

あんなに様子おかしかったのに?


「まぁ、あなたの価値もその程度ってことかしら」

「……私?」


ますます訳がわからない。


「…そう、ねぇ……」


その女は考えるように視線をさまよわせ、何かを思いついたかのようにニッコリと私を見て微笑んだ。


「あなたをここから落としてみれば、思い出すかしら?」


ここ…?


首を傾げ、後ろを振り向けば、そこには見慣れた街並みが遠くまで広がっている。


そうだ…ここ屋上だ…っ。

ゾッとして、2、3歩フェンスから無意識に離れる。


「ふふっ。しないわよそんなこと」

「………」

「…今はね」


安堵しかけた私を嘲笑うかのように、ねっとりと微笑む女。


今始めて、その女に恐怖感が湧いた。


「精々、気をつけるのね」

「……」

「死なないように」


その言葉が、決して嘘でないことを女の表情が物語っていた。