僕等の恋と嘘

「俺がなってやるよ。」


ニヤリ、と口角をあげて。


「なにに?」


雅陽は言った。


「お前の彼氏。」


そんなつもりじゃなかった。


「いや、遠慮するし!!
ていうか、何でそういうことになっ…」


ちゅっと、軽く鳴ったリップ音があたしの頭から離れない。
離れ際の見たこともない雅陽の妖しい顔が頭から離れない。


「拒否権なんかお前にねーし。」


そう言っていつのまにかコンポから出していたCDを持って部屋から出て行ってしまった。


こんな事になるなら…言わなかったのに。


今更雅陽を恋愛対象で見ることなんて出来ない。


…雅陽と出会ったのはいつだっただろう…。
たしか、幼稚園の年少さんの頃。
8月くらいに隣の部屋に越してきたんだっけ。
夏休みで幼稚園もないから朝から夜まで遊んだ。
喧嘩なんてしょっちゅうしたし、一緒に男の子みたいに泥まみれになって遊んだこともある。

小学校の高学年くらいだったかな。
突然あんまり遊んでくれなくなって、嫌われたと思って本気で悩んだんだ。
嫌われるのが嫌だと思ったのは、だんだん気付いてくる恋愛感情からじゃなくて友達として、雅陽が大好きで一種の心の支えだったからだ。

友達には数え切れないくらい、小学の時も、中学の時も…そして今も
『いいなぁ』『紹介してよ』『依緒は渡邉くんとは付き合わないよね。』
そう言われてきたから。

みんなが口を揃えて言う『渡邉くん、格好いい』はあたしには中学まで理解できなかった。
性格が悪くて、すぐ人の物を勝手に借りていく、部屋に勝手に入ってくる、ワガママ…。

そんな色んなことがいつしか催眠術のようにあたしが心の中で雅陽に対して抱く“恋愛感情”を消していた。