横を通りすがった御婆さんが、振り返り私を見つめた。


「…夕ちゃん?…夕ちゃんかい?」


すっかり歳を取り腰も曲がった御婆さんは、しゃがれた声を発した。



……夕?


その名を聞いて反射的に私も振り返って御婆さんを見つめる。


「やっぱり夕ちゃんなんだね?」


首にタオルを巻き、片手に瑞々しい野菜が沢山入った籠を持った御婆さんを上から下まで見る。


あ…この人…


「…もしかして…、田辺さん?」


田辺文(タナベ アヤ)さん。


この村では結構歳のいった人で、広い畑を持つ御婆さん。昔、暇で仕方ない時にお仕事のお手伝いをさせてもらって、ご褒美に生野菜を貰ったりした。


…懐かしいなぁ…


改めてそう思う。


「…やっぱり夕ちゃんか、大きくなったねぇ…」


そういう貴方は随分と小さくなりましたね…、勿論身長の意味で。



なんて…そんな事言ったら怒られるかもしれないから止めとこう。


「…はい、すっかり都会生活にも慣れまして。」


笑顔を浮かべそう答えると御婆さんも攣られて笑った。


「…敬語なんていらないのに、夕ちゃんらしくないよ?」


何歩か私に歩み寄ると、視線をあげ私を見上げた。