職員室を出た早智と哀流は、無言のまま昇降口の方へしばらく歩く。
早智が数歩、前を行く。

「哀流、いい加減にして!何度目だと思ってるの」

急に立ち止まり、哀流の方へ向き、声を荒げる。
顔には明らかに怒りの表情が見てとれる。

「煩い」
「…哀流」

冷たい態度に早智も少し悲しくなる。

「もう帰ってくれ。早智の事、親だと思った事なんて一度も無いから。こうやって学校に来るのも…もう辞めて」

そんな早智の思いを知ってか知らずか、哀流は早智に背を向けて行ってしまう。

「…哀流…両親の仇を討つんでしょ」

哀流の足が止まる。

「だったら、これ以上目立つ行動は止めなさい」

凛とした声に、哀流は拳を強く握り締めた。そしてまた歩き出す。

(分かってるよ。そんな事…けど、早くアイツを見つけて…)


時は15年前に遡る。

「パパー、ママー、早く!」

少年…年の頃なら2歳。先に歩く自分が振り返り、父と母を呼ぶ。ごく当たり前の光景。

「分かってるよ。哀流、そんなに急ぐと危ないよ」

先に行く息子の腕を掴まえ、父はそう答えた。その後ろに優しく微笑む母の姿が見える。
父に抱き抱えられ、いつもと同じだと哀流は思った。
こうやって毎日過ぎていくのだと。

しかし、急に強い風が吹いたかと思うと、今まで微笑んでいた母が崩れ落ち、5人の黒服に包まれた男達がいた。

「間宮」