「杷山、何だその格好は?!」

廊下の向こうから怒鳴る佐藤の声が聞こえる。
学内一うるさいと評判の野球部顧問の先生だ。

「…何」

ゆっくりと生徒が向きを変える。
杷山哀流。
この桜庭西高等学校では、ちょっとした有名人だ。
一日に一度は必ず、佐藤に怒鳴られる姿が校舎の何処かで見られる。
そんな風だから、声を聞きつけ自然と生徒達が集まるようになった。


佐藤は周りに集まり始めた生徒達を一睨みすると、顎で哀流を職員室の方へと促した。

「…杷山、今月で何度目だ。いい加減その髪の色と服装を直さないか。」

職員室の自分の席へ腰をかけると、生徒個別の資料に視線を落としながら、いつもとは違うトーンで佐藤は切り出した。

「…」

哀流の調子は変わらないまま。


佐藤が小さく溜息を洩らした。


しばらく経ってから、職員室には、若い女性とその隣に哀流が座っていた。
向かい側には佐藤が座る。三人の周りには、重い空気が立ち込めていた。

「ごめんなさい、先生」

最初に口を開いたのは、若い女性だった。年の頃は二十七、八歳。
杷山早智。表向きは哀流の姉と名乗っているが、実の姉ではない。
早智が所属しているある組織で、ある子供達をある事の為に育てている。
早智の様な者が、他に何人も居て、同じ様に子供を育てている。

「全くです。何度注意しても、杷山は服装を直しません。退学になってもおかしくないくらいです。…ですが、理事長の事もありますので…。弟さんにしっかり言い聞かせてください。
他の生徒達に示しがつきませんから」

佐藤は、腕を組んで難しい顔をした。

「はい、すみません。私からしっかりと言い聞かせますので…」

早智は深々と頭を下げ、職員室を出て行った。
その後に哀流も続く。