和音が顔をしかめたとき、目の前に漆黒が広がった。
視線を合わせると秋が先程作った兎のぬいぐるみを差し出していた。
虚瞳で小首を傾げている。
あまりの可愛さに和音は心臓の中心をいぬかれた何かを感じた。


「…コレあげる」


微かで消えてしまいそうな小さな声が和音を呼ぶ。
和音は兎を受け取ると笑顔でありがとうとお礼の言葉を口にした。
和音の笑顔が嬉しかったのかずっと無表情だった秋の顔に小さな小さな微笑みが浮かび上がった。
秋は麗の腕から逃げ出すと和音の胸のなかに飛び込んできた。


「秋ちゃん?」
「…かずね…あったかい……麗と蓮みたい……」


変な間をおきながら秋は和音の温もりに安心しきった声を出す。
和音もそんな秋を愛しく感じ頭を優しく撫でて上げる。

そんなとき教室の扉が開く音がした。
生徒全員が振り返ると三十路過ぎくらいの女の人が立っていた。

彼女は緋子(アカネ)と名乗り出席簿らしきものを取り出しシャープペンを走らせる。
皆がその姿を見つめていると緋子は行くわよと言い教室を後にしてしまった。
生徒全員が"はっ!?"と言ったとき麗と蓮が右手にタロットを扇状にして占い始めた。
一分後―…。


「体育館に移動だって?」
「さっさと行こ」


二人は和音と秋の手を握り席を立ち上がる。
皆も急いで立ち上がり双子を追いかけた。