さっきからあまり反応のない俺にむっとしたのか、頬を膨らませて睨み上げる真裕。


「どうしたのボッとして。どっか痛い?」


だけど心配そうに首を傾げる姿は、可愛いものだった。


「いや、なんでもない。お前はどこも痛くないか?」


「ん…? そういえばこの辺がちょっと…」


そう言って腰回りを摩る。


あ…やべぇ。

またあれが。罪悪感が。


「悪い…」


「え、でもほら、なんとなーく違和感…みたいな…感じだし…? …ね、かっくん」


一生懸命にそう言ってみせる真裕に笑い返した。


「あ、ねえ。今日はなにもないよね?」


「ああ。ケインも休めっつってたしな」


「そっか。じゃあずっと二人でいられるね」


にっこりと嬉しそうに笑いながら言われ、思わず…。


「…もう一回いい?」


「え"っ」


…口走っただけだ。気にするな。




…まあ、後ろめたさはあったものの。

日常の平和ってのはこんなもんなんだなと思った。


だが。

そういうものは大概。

長続きはしない。


あまりに大きく、あまりに哀しい、全てを引き裂く事件が。

この時すでに、俺達の近くまで忍び寄っていた。