――楓サイド――
『……まだかしら』
『控え室出て数分でよくその台詞出たな』
『まだかしら』
『聞けよおい』
『まだかし…』
「うるせェなこいつら…」
『しみじみと…!?』
まあ、気持ちは分からんでもない。
会場中が同じように浮き足立ってるからな…。
『ちょっと今どこにいるの? …え!? まぁだそんなことしてんの! 早くしないと受付時間終わっちゃうわよッ』
…なんて、電話越しに連れに怒鳴ってるやつもいれば。
『時間間違えた…! や、やばかったぜ…』
…と胸を撫で下ろしているやつもいる。
『ねーママ、まだあ?』
待ち遠しそうな子供も…。
『このチケットがこの手にあるのは、そう、奇跡…!!』
…などと自分に酔ってるアホもいる。
無理もない。
今回真裕の適当さのせいでカメラ関係お断りなために、限られた数の人しか見ることはできない。
会場で見るしかないのだから、見られない者の落胆さはハンパないだろうな。
特に…あれら。
花梨とか修平。
花梨なんかは、箸折ってそう。
その姿が鮮明に頭に浮かび、思わず笑いそうになったけど。
『そろそろ席に行こうよ』
ハディの一言で、客席に足を向けた俺達だった。

