秘密のMelo♪y④*ウィーン編㊦*


…そりゃさ、あたしはこの人のことよく知らないよ?

てかぶっちゃけ全然知らないよ?

実は悪い人じゃないのかもしれない。

でもさ…やっぱり突然結婚しろとか言ったり、夫の前で告白してみたり、はたまた無理やりキスしたり。

…そんなこといきなりされたら、誰だって毛嫌いすると思わない?

常識がないんじゃないかしら。


「そうですか。ではこちらで検討しますので、資料お預かりできますでしょうか?」


「ああ、はい。どうぞどうぞ」


「!」


―バサッ


ちょっ……本当にコイツ、いい度胸してるね?

藤峰家次期当主に。

しかもその旦那の目の前で。

よくもまあわざとらしく手を握れたものだわ。


咄嗟に手をひっこめた拍子に落ちた資料を、かっくんが無言でかき集めた。


「失礼します」


そして一言そう言うと、あたしの手を引いて早々に応接室を…。


「真裕さん」


「……」

「……なんでしょう?」


「ご主人に言ってるんじゃありませんよ。僕は真裕さんに言ってるんです」


分からないかな…。

あたしが返事しないってことは、話す気ないってことだよ。

自分がどれだけ偉いつもりか知らないけど、あたしも自分が偉いつもりはないけど。

少なくともあなたよりあたし達のほうが立場は上だというのに。

取り引きを持ち込む側と、受ける側。

内容がどんなに良くても会社と…そこの人達と合わなければお断りすることはある。

自分の態度次第で大きな取り引き一つが潰れるってこと、分かってるのかな?