もう会えない君。



窓を開けていたお蔭で熱気に包まれる事はなかったけど生温い空気が部屋を包み込んでいた。


ベランダの窓を閉めてエアコンのスイッチを入れた。


ふと鏡に目をやると熱った頬が赤みを増してチークを着けたような色になっていた。


鞄をソファの上に無造作に投げ捨て、冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出した。


一口含み、テーブルの上に置いてソファに腰を下ろした。


エアコンの冷風が程よく熱った頬に当たり、次第に熱った感覚がなくなった。



…皐の笑顔を見た時に胸が高鳴ったのは――――好きだから?


人を好きになった事がない私にはよく分からない事だらけだ。


初めて会った時も皐は他の人と違って魅力があった。


笑顔も言葉も全てに魅力を感じた。
皐から微かに香る爽やかな香水がとても心地よく思えた。


…皐を知りたいと、もっと知りたいと思う。


きっと知りたいと思う事が世間一般で言う“片想い”なのだろうと私はこの時、初めて知った。