もう会えない君。



「皐くんも今帰りなんだ?」
胸の高鳴りに気付かないフリをして私は皐に問い掛けた。


「うん、凛ちゃん居たから驚いた」
皐はそう言ってマンションの出入口を指し示して「行こっか」と付け加えた。


再び歩き出した私の隣には皐が居る。
やけに心臓が五月蝿い…。
隣に居る皐に聞こえてしまうんじゃないかって思うくらいだ。


だけど皐は気付いていないらしく、言葉を発する。
皐の言葉に敏感になったわけじゃないけどビクッと肩を上下させる自分が居た。
…まあ皐はその事にすら、気付いていないみたいだったけど。


エレベーターの中に入った時は大変だった。


個室の中に二人きり。
余計に心臓が五月蝿く鳴った。


手に冷や汗が出るくらい緊張しまくりだったけど態度に示す事はなかった。


「それじゃ、またね!凛ちゃん」
エレベーターを降り、303号室の前で皐は最後に笑顔を見せた。


「またね」と言って私は皐に手を振り、部屋の中に入った。


バタンと扉を勢いよく閉めると私は扉に背中を預けた。



――…私、皐に恋しちゃったかも。