もう会えない君。



「あ、そっか…彼女だからって言ったからだ」
混乱したかと思えば、また一人で納得してる。
表情をコロコロと変える悠を見てると自分の疑問が馬鹿らしく思えてきた。


「ゆーう!」
私がもう一度、名前を呼ぶと悠は私に気付き、首を傾げた。


「さっきの取り消すね」
そう言うと悠は満面の笑みを浮かべた。
やっぱり悠にはどんな表情よりも笑顔が似合う。


きっと私が知らないだけでカップルの中には決まり事のようなものが存在するのだろう。


だから悠はあえて言葉を選んだんだと思う。
名前で呼んでいいのは彼女の特権。
つまり、それは仮の彼女でも演じなければならない事。


フリをするというのは簡単な事ではなかった。


ただ隣を歩けばいいという問題ではない。
カップルそのものを演じきらなければならない。


やけに面倒だけど悠と居るのは面白かった。


たまに隼が女の子の間を掻き分けて私達の所に来る。
そして話が弾んで盛り上がる。


いつまでもこんな生活が続けばいいのに…。