「はや、と…」
震える声で隼の上着を掴みながら声を出すと隼は優しい声色で「大丈夫」だって言った。


「いつまでも隠れてんじゃないわよっ!」
ドカドカと近付いてきた由香里さんの動きを阻止したのは…――――息を切らした悠だった。


「なっ…」

「ま、間に合った」
悠は肩で息をしながら由香里さんの目の前に立つと仁王立ちした。


そして悠は私と隼に合図をした。
“逃げろ”という合図を…。


だけど逃げれるわけがない。
悠を一人残して逃げれるわけがない。
正常じゃない由香里さんと二人きりに出来るわけがなかった。


その考えは隼も同じで、一歩も動こうとはしなかった。


私さえ由香里さんの言う通りに動けば…。
何をされるかは分からないけれど、それでも…。


「あ、凛!」
呼び止められた頃には悠の少し手前に立つ自分が居た。


「やっと出て来てくれた」
口角を上げて冷たい視線を私に送る由香里さんは誰が見ても怖いと思う。


私は黙り込んだまま、焦点の合わない由香里さんの目を見てた。


由香里さん…、もしかして…薬物に手を染めてる?
口臭が一般的な臭いではないと思ったけど息を止めるわけにもいかず、私は口で呼吸をした。