名も無い歌


その後も、俺たちは活動を続けた。シングルだけでなく、アルバムも出せた。
だけどやっぱり、終わりは避けられなかった。

アザミはラストライブの半年後に、聴力をほとんど失った。腫瘍の摘出手術は成功したが、聴力が治る見込みはもうないらしい。だけど彼は、健気にも気丈に振る舞っている。だから俺はあることを決意した。

俺や楽器隊は、アザミが歌えなくなった時点で解散しようと思っていた。けど、俺は皆を集めて言った。

「アザミは居ないけど、あいつのために俺たちだけでバンド活動続けないか。」
「俺たちもそれ考えてた。やろう。」

彼らがそう言ってくれたおかげで、俺たちはこのままやり続けることになった。

アザミを、聞こえなくてもライブに呼んだ。ステージパフォーマンスだけでも感動させ、楽しませたかった。その度「大きくなったね」って言ってくれる。
俺の歌声、聞いて欲しかったな。またギター弾いて欲しかったな。聞こえなくても、ここまで来た俺たちを見ていて欲しいと思った。

夢の東京ドームで、俺は思い切り叫んだ。隣に立っている、彼に。

「おいアザミ、見えてるか?この景色綺麗だろ、やっと俺たち来たんだぜ?」

「見えてるよマツリ。ありがとう。」

久々に聞いた声は相も変わらず柔らかくて優しくて、そして嬉しそうな表情は酷く目に焼き付いて離れなかった。


今、アザミはギターを背負って次の舞台(ステージ)へ、俺たちと共に。



Fin.