―――ミーンミンミンミン

『あっつーい!!』

汗が流れる、ある暑い夏の日。

颯太は、

『ちはる、こっち!』

って、あたしを木陰に呼んだ。

『わぁーっ!すずしいっ♪』

木陰がこんなにも涼しいなんて、そのときの幼いあたしは知らなかった。

『はやた、なんでもしってるねっ!』

あたしの毎日は、ほぼ颯太だった。

颯太の毎日だって、あたしだった。

毎日毎日、2人で新しいことを見つけたりした。

『これからも、ちはるに、いーっぱい、いろんなことおしえてあげるよ!』

ずっと、2人は一緒だと思ってたの。

でも、幼なじみは幼なじみ。

お互い、彼氏彼女ができたら、一緒にはいられなくなるんだろう。

『ちはるー!ずっといっしょだよっ!』

…そんな言葉は、今は聞けない。

高校2年になったある日、

『…俺、好きな人ができた。』

突然、颯太は言った。

帰り道、自転車の後ろで、初めて聞いた。

今までそんな話、1回も聞いたことなかった。

『そうなんだ!誰!?』

そのときは、颯太のことをなんとも思ってなかったのかな?
あたしは、颯太の好きな人の話が聞けて嬉しかった。

…でも、苦になってきたの。

たった何ヵ月しか、聞いてないのに、嫌になってきた。
胸の奥が、モヤモヤするの。

『今日も聞いてくれる!?』

そんな言葉が、一気にあたしを落胆させるようになった。

…なんでだろう。

普通にしなきゃ。

…そうしたいのに、難しくなった。

「…はる!…千春っ!?」