「おーい、千春!」

朝から、大きな声が響く。

眠い目を擦りながら、部屋の窓を開ける。

「…何?」

あたし、〈高松 千春〉は、高校2年生。

久しぶりに部活がない土曜日をゆっくり寝て過ごそうとした矢先、これ。

「千春ー!!今日、部活ねぇんだし、付き合えよ!!」

この朝からうるさいコイツは、〈堀川 颯太〉っていう。
同じく高校2年生。

“付き合え”っていうのは、彼氏彼女になれって意味じゃない。

「嫌だ。眠いの。」

断るものの、そんなに簡単にはわかってくれない。

「いいじゃん、千春♪俺の悩み聞いてよー!!」

そう、“付き合え”っていうのは、“颯太の悩みを聞け”っていうこと。

「今まで何回聞いた?」

「いいじゃん!!聞けよなー…。」

何よ、その顔。
…そんな顔されたら、断れなくなる。

着替えて、玄関を出ると、自転車に乗った颯太。

「聞いてあげる。」

自転車の後ろに座る。

「よーし!行くぞー♪」

「こんな夏の暑い日に呼び出さないでよ。」

…なんて文句を言ってるけど、楽しんでるんだ。

颯太の家は、あたしの家から5分くらいのところにある。

だから、小学校から、ずっと一緒。

頭のよさも同じくらいだったから、高校も同じ。
…幼なじみってやつ?

颯太の家に到着。

玄関を開けて入っていく颯太。
後ろからついていく、あたし。

颯太の部屋に入る。

テーブルを挟んで前に座る颯太。

二人っきりになったって、何も起きない。
…起きるほうがありえない。

男と女なのにね。