仮病に口止め料


右手首に感じる温もりに愛を語らずにはいられない。

放課後の下校時や休日デートの帰り道、指先をさらうのはいつだってこちらばかり。

それがどうして俺が一ミリも手を動かしていない今、彼女に触れている?


「なに、可愛いことすんね。あれだな、お前古風なぶりっ子か?」

照れ隠しでおどけた口調を心掛けたなら、彼女が頼りなく笑ってくれた。

これが普通なら、クラスの女子が『傍にいて』と訴えがちな中、

あえて『だってあたし淋しんだもん』なんておどけ、アホっぽく展開され、茶化しあって話がどんどん盛り上がるところを、

沈黙が生まれる現在。


厚めの枕の横に並んだリップクリームや目薬、アイマスクの日常感が可愛くて堪らない。

馬鹿は無音が嫌いで、馬鹿笑いの騒音が好き。

そして田上結衣、唇だけで気持ちが読み取れる自分たちの関係が嬉しいと素直に思った。