隣のお兄ちゃん


「葵、俺さぁ…」


裕くんが話すのを遮って、あたしは言った。 


「裕くん。やっぱりあたし、あげられない。だって、あたしはその子の代わりにはなれないから」


その子の代わりにチョコをあげたって、あたしの気持ちも裕くんの気持ちもどっちも満たされないよ。


お互い虚しさが残るだけだよ。


いつまでもあたしたちは子どもじゃないんだよ。


幼稚園の頃みたいに『大きくなったら結婚しようね』なんて、簡単に言えるわけないんだよ。


やっぱりチョコは渡せない。


――もうすでに、涙が溢れて止まらなかった。