ひとりぼっちの君へ

結局俺は、彼女…藤川さんに勧められた2冊の参考書を買って本屋を出る。
心臓はいままで忘れていたかのように活発に音を立てた。

本屋を出た瞬間、はぁーっと吐き出した溜息は西村にまで届く。


「松本がそんっなに草食だとは思わなかった」
「西村が肉食なんだよ!」
「いやーっ、面白いもん見せてもらった!次はアドレスだな!」
「アドっ…!


あははと笑う西村の背中を睨む。でもまぁ、彼女の名前を聞けたのは彼のお陰と言っても過言ではない。


茜色だった空はもうすっかり暗かった。俺はさっき買った重たい参考書を鞄に詰めて、西村と肩を並べて歩き始める。


「あぁ、でもなぁ、お前が恋をしたら悲しむだろうな」
「え?』


西村の言葉に俺の頭の中はハテナでいっぱいになる。誰が悲しむというのだろうか?

この前のカラオケでの打ち上げを思い出す。ぼんやりとした記憶の中、俺の頭には椎名さんが浮かんで、消えた。いや、でも椎名さんは…。

ぐるぐると考えを巡らせていると、「お前も鈍いなぁ」なんて言ってから、西村は自信たっぷりのドヤ顔で口を開いた


「山下だろ!あいつお前の事好きなんだと思うぜ、絶対!!」


西村のその言葉に、俺が絶句したのは言うまでもない。鈍いのはお前だ、と言ってやりたかったけど山下の為に言わないでおこう。


高校生最後の年、何かが起こりそうな、そんな期待を俺達は抱いて歩き始める。

季節は春から夏へと移り変わろうとしていた。