柔らかな風の中、少女はぷうと頬を膨らませた。

「また先にいる」

 振り返った老人は笑みを浮かべる。

「年寄りは暇だからね」

 その言葉を皮きりに、少女はそっと腰を下ろした。

「それで、今日はどんな話だい?」




「今日はね、宿題が出たの」

「ほう」

 面白そうに笑った老人に、少女は困ったような顔をした。

「でも、思い付かなくて」

 唸る少女の姿が微笑ましい。

「どんな宿題なんだい?」

「作文。テーマは『将来』」

 なるほどと呟いた老人は少女の隣りで小さく呟く。

「そればかりは、我々大人は見守ることしかできないなあ」

「…うう」

 恨めしげな少女の顔に、老人は思わず吹き出した。

 頬を膨らませる少女に静かに問い掛けてみる。

「では、一緒に考えてみようか?」




 何になりたいか。

 いきなり言われても大抵は悩む。

 特にまだ追い詰められていない中高生なら尚更だ。

「まずは自分が得意なものを探すんだ」

「得意なもの?」

 少女が首を傾げ、老人は頷く。

「好きなこと、良くやることでもいい。とにかく目の前にある、手の届く範囲のものに挑戦するんだ」

 始めてやることや苦手だと思っていたこと。

 案外仕事にしたら天職だったということは多い。

「あとは、そうだな。…大人に仕事の話を聞いてみるのもいい」

 うー、と唸る少女の姿が見えた。