「今日ね」

いつものように川縁の草の上にぽすんと座り込んだセーラー服の少女に、傍らの老人は笑みの形に唇を歪めた。

「クラスの男子たちが、同じクラスの男の子をからかってたの」

「ほう」

ようやく向けられた目に、少女は一瞬みじろぐ。

「…それでね、その子が抵抗したんだけど。からかってた子がね」

―――生意気だ!

嘲りさえ含んだ言葉に、思わず振り返った。

「…同じクラスで、同じ年で。同じ人間で」

ぱちりとあった目に、老人はわずかに微笑む。

「なんで、生意気って思うのかな?頭いいと尊敬しなきゃいけないの?運動できたら敬わなきゃいけないの?」

「…ふむ、難しい問題だね」

老人は、顎に手をあてた。

「君に分かるかな。人間には支配欲というものがある」

「…人の上に立ちたいって…コト?」

「うん。それにもう一つ、これは悲しいことだが…人という生き物は、自分と同じではない人を排除する傾向が強い。キリスト教の魔女狩り、黒人差別」

黙り込んだ少女を見て、老人はわずかに眉間に皺を増やした。

「…民主主義、という言葉がある。簡略的に言えば、政治は民がするもの、ということだが」

老人は息を吸った。

「その一つとして『多数決』がある。人数が多い方を優先するというものだな」

最近良く使われる言葉だからだろう。少女は小さく頷いた。

「…だが、それは。少数派の言葉を殺すことになるんだ」

「…それが、同じじゃない人を排除する…ってコト?」

「極論だと思うかな?」

少女は考えるような仕草をしたあとに、ゆっくりと首を振った。