不機嫌でかつスイートなカラダ

着替えを終えて髪を手ぐしで整えて振り返ると、卓巳君もすでに服を着ていた。


「やべ……オレ汗臭いかな。シャワー浴びた方がいいかな」なんて言いながら、Tシャツを引っ張っている。


「じゃ、あたし帰るね……」


あたしは立ち上がって、コートに袖を通した。



「ああ……。ごめんな、これから用意すっから送っていけないけど……」


玄関先まで来てくれた卓巳君が申し訳なさそうに言う。


「ううん。平気」


あたしはブーツを履いて振り返った。


そして卓巳君のシャツの裾をキュッと掴む。

卓巳君はそんなあたしの様子にキョトンと首を傾げる。


「萌香チャン……?」


あたしは精一杯背伸びをして、卓巳君の唇と自分の唇を合わせる。

そっと触れるだけのキス。

あたしからした最初で最後のキス。


「じゃね」


あたしは卓巳君から背を向けると、急いでドアノブを回した。

もうこれ以上ここにいたら、きっと泣いちゃうから。


もうきっとここに来ることはない。


「卓巳君、さよなら」


最後はちょっとだけ声が震えた。


卓巳君に気づかれませんように。


そう祈りながら、ドアを開けた。