ジー……という音とともに、ファスナーが少しずつ下がっていく。


――ダメ!


「ヤッ……」


咄嗟にあたしは顔を卓巳君から離した。


「ダメ……。今日はダメなの……」


「なんで?」


その瞬間卓巳君の表情が曇った。

明らかに不機嫌そうだ。

こんな卓巳君を見るのは初めてかもしれない。


――嫌われたの?


エッチを拒んだから、怒ってるの?


どうしよう……。

途端に鈍る、あたしの決心。


何も言葉が出てこない。

そんなあたしを見て卓巳君はどう感じたのか、今度は首筋に唇を這わす。

背中のファスナーはどんどん下げられていく。


それに伴ってあたしの体温も心拍数もどんどん上昇する。

体はもう彼を受け入れそうになっていく。

このまま流されてしまいそう……。


でもダメ。


「やめてっ」


あたしは両手で卓巳君の体を押す。


「なんで今日はダメなんだよ?」


相変わらず不機嫌そうな卓巳君。

あたしは手にしていたクッキーの紙袋をギュと握り締める。


今日はダメ。

エッチはしないって決めたんだもん。

ちゃんと話がしたいの。


「卓巳君……あのね、あたしっ……キャッ……」