――最後にする


なんて言いながら、この気合いの入れようは何なんだろう。

あたしは壁にかかったワンピースを眺めた。


今日はクリスマスイブ。

この日のために……わざわざ新しい服を買ってしまうなんて。

あたしって、ほんとバカ。


イブに会うと言っても、あたし達は相変わらず外で待ち合わせするような約束はしていない。

今日も卓巳君の部屋に呼ばれただけで、どこかに出かける予定もない。


だからこんなにオシャレしてもあんまり意味ないんだけどなぁ……。

それでも、卓巳君にちょっとでも可愛いって思われたいんだ。



あたしはワンピースに袖を通した。

黒のシフォンワンピース。

前に卓巳君が好きだって言ってくれたスカートと同じような素材。

きっとこういう柔らかい素材が好きなんだと思う、卓巳君。


背中のファスナーを上げる。


胸元は鎖骨よりかなり下のあたりまでスクエア型に開いてて、レースがあしらわれている。

ちょっと開きすぎていてきわどいかなぁ……。

前かがみになったら、谷間が見えちゃいそうだなぁ……。

あたしは念入りに鏡の前でチェックする。

うん。

これぐらいなら大丈夫かな。


そしてお気に入りの小花に小さなパールがあしらわれたネックレスをつける。

耳にはそれとおそろいのピアス。

こういう瞬間って女の子に生まれて良かったなって思う。

大好きな人のためにおしゃれするの。

こんな努力、男の子はきっと気づきもしないんだろうな。

それでも、いつもと違うあたしにドキドキしてくれないかな……なんて思いながら準備をするんだ。

髪は緩く巻いてアップにした。


香水は……。


ボトルを手にとってしばらく眺めていた。


――今日は辞めておこう。

卓巳君にあたしの香りが移ったら、きっと迷惑になるから……。


あたしは香水の瓶をコトリと鏡の前に置いた。