だけど、そんな不安を掻き消すような笑顔で和美さんは微笑む。



「ありがとうございました。またお越しください」


ペコリと頭を下げると、今度は本当に背を向けて去って行った。


それは軽やかな足取りで、彼女の背中にまるで天使の羽でもついているんじゃないかって錯覚してしまうほどだった。



あたしはその姿をぼんやり眺めながら、手の中にある100円玉をギュっと握り締めた。


「萌香……」


心配そうに横からあたしを覗き込む沙耶。

それもそのはず。

あたしの目からはとめどなく涙が溢れて100円玉を持つ手にポタポタと雫が落ちていた。



「……った…円だよぉ……」


嗚咽交じりで上手く言葉にできない。


「たった100円だよぉ……」


そんなもののために、わざわざ追いかけて届けにきてくれた。

こんな寒い中、コートも着ないであんな薄着のまま……。

手に握り締めた定規は、慌てて追いかけて来てくれたのを物語っていた。


「適うわけないよぉ……。卓巳君が彼女を本命にするのも当然だよ。お似合いだよ……」


――天使のような女の子。

あんな笑顔を見せられたら誰だってそう思ってしまうだろう。


あんな姿見たくなかった。


和美さんが意地悪な人だった方がまだマシだ。

嫌いになれたら、どれほど楽だっただろう……。




「……あたし、間違ってたのかな……」