不機嫌でかつスイートなカラダ

見つめあったままの沈黙。

ほんのわずかな時間が随分長く感じられた。


どうしよう……。

何か誤魔化さなきゃ。

だけど、いくら探しても言葉が見つからない。


あたしが乾いた喉をゴクリと鳴らしたその時、和美さんの桜色した唇がゆっくりと開いた。



「……良かった」


「え……?」


和美さんがあまりにもふんわりとにこやかな笑顔を向けてくれたので、あたしはポカンとするしかなかった。

きっと今、世界一間抜けな顔してると思う。

少なくとも彼女の笑顔を見ている限り、さっきの話は聞かれてなかったようだ。

あたしはホッと胸をなでおろした。



「赤信号」


和美さんはそう言ってあたしの背後を指差す。


「え?」


あたしは振り返って、信号機を確認する。

確かに今信号の色は赤だ。


「おかげで追いつきました」


そう言って、にっこり微笑んで肩をすくめる。

なんだろ……このムード。

彼女がこの場にいるだけで、まるで春のポカポカ陽気に包まれているような気がした。

ムードメーカーって言葉が相応しいのかな。

きっと周りにいる人達をふんわりと優しい気持ちにさせてくれるような、そんな雰囲気を纏った女の子。


「はい。どーぞ」


和美さんが差し出したのは100円玉。


「これって……」