和美さんは手袋をビニール素材の袋に入れて、お店のロゴマーク入りのリボンを丁寧に結ぶ。


「メッセージカードもおつけしますね。良かったらお使いください」


そう言って、にっこり微笑むと小さなカードを添えた。

あたしはその手つきをじっと眺めていた。

小柄な彼女はやっぱり手も小さくて可愛らしかった。

接客業をやっているせいか、きちんと手入れされた指や爪。

赤ちゃんみたいに白くて柔らかそうな指に、薄桃色と白のフレンチネイルが清潔感を漂わせていた。


――あたしの荒れたカサカサした手とは大違いだ。



「300円のお返しです」


お釣りを渡そうと和美さんはあたしに手を伸ばした。

それを受け取ろうとするあたしと、和美さんの指が一瞬だけ触れた。


その指先があまりにも温かくて柔らかくて……。

なぜかどうしようもなくみじめに感じたあたしの指はビクンと震えて、受け取ったはずの小銭を床に落としてしまった。


「あっ……申し訳ありませんっ」


あたしが悪いのに……。

和美さんのせいじゃないのに……。


和美さんは、本気で申し訳なさそうに謝ると、慌ててしゃがみ込んで小銭を拾おうとする。

だけどその一枚がコロコロと転がってレジ台の下の隙間に入り込んでしまった。


とりあえず100円玉2枚をあたしに差し出すと、もう一度しゃがみこむ和美さん。


「んー……。取れるかなぁ……」と、もう床に顔がつきそうな位置でレジ台の下を覗き込んでいる。



「あのっ……もう、いいですからっ」


あたしは床に這いつくばっている彼女に言った。


「えっ? でも……」


「あのっ。ほんとにいいんです」


もう、これ以上この場にいたくなかったあたしは、まだしゃがみこんだままの和美さんに背を向けた。


いつのまに傍に来ていたんだろう、目の前には沙耶が呆然と佇んでいた。

その表情は堅く、どうしたらいいかわからないという感じだった。


――きっとあたしも今同じような顔してるんだろうな。


「いこっ」


あたしは沙耶の腕を掴んで歩き出した。