不機嫌でかつスイートなカラダ

―――――
――……


夢を見ていた。


キレイなお花畑を卓巳君と二人で手を繋いで歩いている夢。


夢の中では、あたしは卓巳君が好きで、卓巳君もあたしが好きで。

両想いであることがうれしくって、あたしはうきうきしながら歩いていたんだ。


だけどふいに気づいたの。

背後から誰かが卓巳君を呼んでいる。


振り返らなくてもわかる。

あたしはその人が誰だか知っている。


だけど、わかってないふりして、卓巳君の手をぐいぐいひっぱって歩き続ける。


卓巳君、気づかないで。

後ろを振り向かないで。

あの人の存在に気づいたら、きっと卓巳君は彼女の元へ行ってしまう。


だからあたしは、卓巳君の気を自分の方へ向けようとして一生懸命話かけるの。


だけどふいに卓巳君の足が止まった。

卓巳君はいつものように優しく微笑むと、


「ごめんね……」


そう言ってあたしの手を放して彼女の元へ行ってしまった。



――行かないで


そう叫んでいるつもりなのに。


まるで声を失ったみたいに、あたしの口からは何も言葉が出てこない。


一人にしないで……。


そう思って追いかけようとすると、誰かの囁き声が聞こえてきた。


――“バカな女だな。お前は最初から一人だったんだよ”と。


その途端、あたしの足元の地面にぽっかりと穴が開いて、あたしの体はそこから急降下した。