不機嫌でかつスイートなカラダ

キョトンとする、あたしの顔に卓巳君の顔が近づく。


唇が触れて……まだ冷たい水があたしの口の中に送り込まれてきた。


唇が解放されたあたしは、ゴクンッとそれを喉に流し込んだ。


「もぉ……ビックリするじゃない。何すんのよぉ……」


文句を言いかけたあたしの口はまた塞がれた。


「……んっ……」


お湯の中では卓巳君の指があたしの体を動き回る。


「やっ……」


あたしは両手で卓巳君の体を離そうとする。


「ダメだよ。こんなとこで……」


「無理。もう止めらんねぇ……」


狭いユニットバス。

ゴツゴツと浴槽にあたる二人の体の音とピチャピチャと水の撥ねる音が響く。


体も顔も桃色に火照って、もうのぼせちゃいそう。

腕を伸ばしてギュッと卓巳君の体にしがみついた。

だけど、力が入らないよ……。


あれ……?

体がフワフワして……。


視界がぼんやりして……。


絡めたはずの腕が卓巳君の体から離れる……。


バシャンと言う音とともに、頭からブクブクとお湯の中に沈んでいく……。


「萌香チャンっ……!!」


遠ざかる意識の向こうで、水面の上から聞こえたのは卓巳君の叫び声。


あたしってほんと笑っちゃうくらい鈍くさい女だよね。

こんな小さいお風呂で溺れちゃうんだもん。


誰もが簡単にできることが、あたしにはとても難しかったりするんだ。



――恋も難しいよ。




ねぇ、卓巳君。


この恋に溺れているのも、のぼせ上がっていたのも……

あたしだけだったのかな?


あたし一人だけだったの?