不機嫌でかつスイートなカラダ

卓巳君のそんな言葉にあたしは思わず顔を上げた。


「夕方から用事あんだけど、昼間なら大丈夫だからさ。それでいい?」


きっとこれは卓巳君なりの気遣い……。

だけど、その言葉にあたしはさっきよりも傷ついていた。


――沙耶とおんなじだ。

昼は沙耶と会って、夜は家族と過ごしてた沙耶の彼氏。


あたしも同じことされるんだ。

昼間にあたしと会うのは、夜に本命の彼女とデートするまでの繋ぎ。



「萌香チャン……? どうかした? それじゃダメかな?」


ぼんやりしていたあたしの顔を卓巳君が覗き込む。


「ううん。それでいい……」


その答えに満足そうに微笑むと、卓巳君はあたしの頬にキスをした。

そしてポンポンとあたしの頭を撫でた。


「お姫様、ご機嫌なおった?」




きっと誰に話してもバカだって言われるだろう。

だけど、あたしは卓巳君からのキス一つで幸せな気分になれるの。


弄ばれているだけかもしれない。


それでもあたしはどうしようもないぐらい卓巳君が好きなんだ。

彼女と会うまでの繋ぎにされても……

二番目でも良いとさえ思ってしまうんだ。



「卓巳君、お水ちょうだい。泣いちゃったから水分補給」


あたしは涙を拭うと、少しおどけて言ってみた。


「ん」


卓巳君はペットボトルを手に取ると、なぜかあたしに渡さずに自分の口に含んだ。


「卓巳君……?」