「なんでよ……? 悔しくないの? 萌香、いいように弄ばれてるだけかもしんないんだよ? もう、ここで白黒はっきりさせちゃいなよ?」


あたしはフルフルと首を横にふる。

不思議と悔しいなんて気持ちはなかった。

それよりも今あたしの心の中を占めている感情は……


「怖いの……」


ここでもしもあの子の前で、「お前とは遊びだった。彼女が本命だ……」なんて宣言されたら、あまりにもみじめすぎるよ……。


「今は……まだ勇気がない……」


「萌香ぁ……」


あたしより先に沙耶が泣いちゃいそうだった。

ダメだよ……沙耶。

そんな顔しないでよ……。

あたしは喉にグッと力をいれて堪えた。


あたしはなぜかこの時素直に泣けなかった。

泣いたら、余計みじめになるような気がしたんだ。


あのお店の中はきっと温かいんだろうなぁ……なんて、笑顔の二人を見ながら考えていた。


あたしはかじかんだ手にはぁと息を吐いた。


「寒いねっ。もう、帰ろっ」


あたしは二人から目をそらすと、まだ泣きそうな顔をしたままの沙耶の背中をパシンと叩いた。



視界がぼんやりと歪んで見えるのも、鼻の奥のがツンとするのも、ヒリヒリとするこの胸の痛みも


いっそ寒さのせいだったら良いのに


……なんて、そんなこと考えてた。