不機嫌でかつスイートなカラダ

沙耶はため息交じりに自分の話を始めた。

実は沙耶の彼氏はひとまわり以上も年上で、奥さんと子供がいる。

つまり、不倫なのだ。

当然、イブに会ってもらえるわけがない。


「ほんと、あいつサイテーだよ。去年のイブなんてさ、昼間、奥さんと子供が子ども会のクリスマスパーティに出かけるとかでさ。昼間だけあたしと会ってたんだよ? エッチもしてさ。夜には何食わぬ顔して家で良いパパやってんだもん……。ほんと、サイテーだよ……」


沙耶はポツンと呟くと、足元にあった小石をブーツのつま先で軽く蹴った。


その姿は泣くのを我慢してるようで、痛々しかった。

どんな想いで家族の元に帰る彼を見送ったんだろう……。

不倫は決して許されることじゃない。

あたしも沙耶の恋を手放しで応援してるわけじゃない。

ほんとはもっと幸せな恋をして欲しいって思ってる。

だけど、彼女の切ない気持ちもわかるから……なんて言ってあげたらいいのか、なぐさめの言葉が見つからない。


「それでも、彼のこと……好きなんだよね……?」


あたしの言葉に、沙耶は小さく頷いた。


あたしと沙耶。

立場は違うけど……恋する気持ちはきっと同じ。


あたしだって、もしも卓巳君に彼女がいるってわかったとしても、すぐに切り替えられるほどこの想いは単純じゃない。


もしも彼女がいたら……

あたしはどうするんだろう……。


今まで考えないように避けてきたことだけど……。


いつかそれに直面する日がやってくるのかな。



そんなこと考えていたら、ふいに沙耶の足が止まった。



「あ……」