「告ってみたらいいじゃん? 好きって言ってみれば?」


「そんなこと……言えないよ」


「なんで?」


「怖いよ……」


あたしは俯きながら、意味もなくカップの中のコーヒーをスプーンでクルクルとかき混ぜていた。


「今更そんなこと言えないよ……。だって向こうからは何も言ってくれないんだよ? それって好きじゃないって言われてるようなもんだよ。あたし、都合の良い女でもいいの……。それでも会いたいんだもん」


「萌香ぁ……」


「ほんとはずっと後悔してるんだ……」


「何を?」


「なんですぐにエッチしちゃったのかな……って。なんであんな風に始めちゃったんだろう……って」


あ……。

ダメだ。

涙腺が緩んできた。


「ちゃんと段階を踏みたかったな……。アドレス交換して、メールとか電話で連絡取り合ってさ……。次のデートの約束とかしちゃって。ご飯食べに行ったり遊びに行ったり……。それであたしのこともっとたくさん知ってもらって……。あたしも卓巳君のこと知って、ちょっとずつ距離を縮めていくの……。そしたら、ちゃんと『好き』って言えた……と思……」


もう最後の方は声が震えて上手く言えなかった。

油断したら今にも涙がこぼれちゃいそう。

あたしは目をパチパチさせて鼻をすすった。


「なんであの時……すぐにホテルなんて行ってしまったんだろ……。あたし……バカだよ……。簡単に……寝ちゃう女なんて本命になれるわけないんだよ……」


もう堪えられなかった。

涙がポロポロと零れて止まらない。


その時、ずっと黙っていた沙耶が口を開いた。



「簡単じゃないでしょ?」