「萌香……顔見せて?」


卓巳君は両手であたしの顔を包み込んで自分の方へ向けた。

――ドキンって胸の奥が音を立てた。

なんでそんなに切ない顔で見つめるの?



卓巳君は唇を合わせて、それからギュっと抱きしめてくれた。

二人の間に何も入る隙間がないぐらい力強く。


静かな部屋にギシギシと響く机の軋む音。


体の熱はどんどん上昇する。

口の中のチョコと同じように、体も……もう……溶けちゃいそう。




頭がぼんやりとして何も考えられなくなる。

なのに……。


――『たとえ誰も側にいなくても、恥じることのない清い行いをしなさい。神様はちゃんと見ていますよ』


遠い意識の向こうで、なぜか急にお母さんの声が聞こえた気がした。

来る時に通った教会や賛美歌が頭に思い浮かぶ……。


急に胸がざわざわとして不安が押し寄せてくる。

あたしは怖くなってギュッと目を閉じた。



――神様……。


体ではなく心で通じ合う愛を“純愛”と言うのならば……


このあたしの気持ちはなんと呼べばいいのですか?


愛されているのかもわからない人と何度も体を重ねてしまうあたしは穢れているのでしょうか?


この恋は間違っているのですか?


だとしても……

あたしは……

彼が求めるのであれば、何度でもこの体を差し出してしまうでしょう。




ゆっくりと瞼を開ける。

潤んだ瞳に気づかれたくなくて顔を背けた。


二人の体温と熱を帯びた吐息のせいで、窓ガラスは白く曇っている。


外はまだ雪が降っているのだろうか。


もっと……

もっと降ればいい。


真っ白な雪が降り積もって……


どうかあたしの罪を隠して欲しい……。


そう願って、また瞼を閉じたら……


一滴だけ頬を伝った……。