不機嫌でかつスイートなカラダ

お父さんは高血圧の気がある。

だからできるだけ塩分を控えめにして、その分を生姜やにんにくなど……スパイスで味に酷を持たせるように工夫されていた。

当時野菜嫌いだった敦が食べられるようにと、ハンバーグの中には実は色んな野菜が入っていた。

家族の誰かが疲れて元気がない時には、ビタミンB1を摂取するようにと豚肉を使ったり……。


あたし達は知らないうちに、お母さんの愛情がたくさんつまったお料理で守ってもらっていたのだ。


「だから、あたしも頑張らなきゃって思ったんだ。お父さんと弟の健康を守るのがあたしの役割なんだ……って思ったの」


「うん」


「それでね……。毎日二人の体のことを考えながらお料理していくうちに、一つ目標ができたの」


「目標?」


「うん……あたしね。管理栄養士の資格を取ろうと思ってるんだ」


あたしは管理栄養士になるために、今の大学の家政科を選んだ。

お料理は好きだけど、いわゆるレストランなどの料理人になりたいわけじゃない。

病院や学校の給食センター……福祉施設などで、そのお料理を食べる人達の健康を考えたメニュー作りをしたい……っていうのがあたしの夢。


健康面を重視すると、どうしても味が落ちてしまう傾向にあると思われがちだけど。

そんなことはない。

ちゃんと旬の食材の素材を活かして……味付けを工夫すれば、おいしいものが作れるんだ。

そのことを教えてくれたのは、毎日あたしの料理を残さず食べてくれるお父さんや敦……それから、何よりもお母さんの残してくれた日記だった。


お母さんの死は悲しかったけど……でもそのことであたしには目標ができたんだ。