「おおっ! すげーこと言うなぁ。さすが卓巳(タクミ)!」


卓巳君と呼ばれた彼は、あたしの肩に手を回す。

そしてわざとみんなに聞こえるような微妙な声で耳もとで囁く。


「オレ、気持ちよくさせる自信あるよ?」


その声は低音でちょっとかすれていて、ぞくりとするほど甘いものだった。

あたしは慌てて自分の耳を押さえて彼の方へ顔を向けた。


「な、何言って……! 無理だって。あたし絶対感じないんだから!」


ああ、やっぱあたしはおかしい。

こんな恥ずかしいセリフが初対面の男の子に言えちゃうんだもん。


「萌香ちゃ―――ん! 卓巳と試してみればぁ?」


「うわー、それいいじゃん! お持ち帰りしてもらいなよ?」


みんながキャーキャーと騒ぎ立てる。

既にみんなのテンションも尋常じゃない……。




もうそろそろこのバカ騒ぎにも終止符を打たなきゃ。


そう思って「もぉ……いい加減に……」と言いかけたところで、あたしの体はふわりと立ち上がっていた。


卓巳君があたしの腕をぐいとひっぱって持ち上げていたからだ。


――あ……背、高いんだ。

ぼんやりと彼の顔を見上げながら、一瞬そんなこと考えてた。


「じゃ、オレ達今から試してきま―――すっ!」


「……へ?」


卓巳君は満面の笑みを浮かべてみんなに宣言した。

しかもピースサインなんてしながら。


――か、軽っ……。


ありえないこの展開になんだかクラクラして……眩暈を起こしそうだった。


それはお酒のせいと……彼の体から香る甘い香りのせいだったかもしれない。