「そんなっ。忙しいのに、邪魔しちゃ悪いし……」


「そうでもないよ。忙しいっつうか……あいつの場合、雑念多すぎて集中しないから時間かかりすぎなんだよ」


優一君は何がおかしいのかケラケラ楽しそうに笑ってる。





「あ……そだ」


廊下を歩きながら、優一君が振り返った。


「萌香チャン、映画好き?」


「え? うん」


「じゃ、これあげる」


ジーンズの後ろポケットをゴソゴソと探っていた優一君が、あたしの目の前にハガキのようなものを差し出した。


「映画の試写会なんだけどさ。次の土曜、オレ急に用事入っちゃってさ」


優一君はツツツとあたしの方に近づくと耳打ちする。


「卓巳誘ってみなよ」


「えっ」


耳まで真っ赤になったであろうあたしの顔を見ながら優一君は「萌香チャンて、意外に顔に出るタイプだよね」そう言って、クスクス笑った。


がーん……。

なんだか明らかにからかわれてるよね。


でも、試写会かぁ……。

これなら誘いやすいかも。


『チケットもらったんだ。一緒に行かない?』


なんて、友達でもこれぐらい誘ってもおかしくないよね。

デートの口実できちゃった。


あたしはコートのポケットにハガキをしまうと、感謝の気持ちを込めて優一君の背中を眺めた。



やがて、ある部屋の前で優一君の足が止まった。


コンコンと軽くノックすると「うぃーっす」なんて言いながらドアを開ける。


「キャハハハハハハ」


その途端に部屋の中から聞こえる、数人の女の子の甲高い笑い声。


そしてそのすぐ後に聞きなれた声があたしの耳に届いた。