お母さんが交通事故で突然この世を去ったのは4年前。


7つ年下の敦は、当時まだ小学3年生だった。

今じゃすっかり声変わりして、背もあたしを楽々追い越しちゃった敦だけど……。

それでも、あたしにとっては今でも可愛い弟。

あたしは姉であると同時に敦のお母さんにならなきゃ……って、棺の中のお母さんの顔を見て誓ったの。


もちろん、まだまだお母さんには程遠いけど……。

それでもお母さんが作ってくれた煮物の味……

敦に少しでも味わって欲しくて、あたしは毎日お母さんの味を思い出しながら料理してるんだ。


「まぁ、でもねぇちゃんの料理はうめーよな、たしかに」

フォローのつもりか、敦の手が横から出てきてレンコンが盗まれた。

もぐもぐと口に頬張る敦の姿を見ていると、ふいに卓巳君のことが頭を過ぎった。


――卓巳君……ちゃんと食べてるかな

たしか今日は大学で泊り込みだ……って言ってたよね。



あたしはバタバタと食器棚を開けて、プラスチック容器を取り出した。


「ねぇちゃん?」


側でキョトンとする敦に声をかける。


「一人で夕飯食べられる? あたし、ちょっと出かけてくるから」


「は? 今から? どこいくの?」


「ちょっと……友達んとこ。すぐ帰ってくるし」


“彼氏”と言えない、自分が虚しいや。


あたしはプラスチック容器に、筑前煮とほうれん草とカブと、あたしの分の太刀魚の塩焼きを入れた。

ごはんも握って、梅干と昆布のおむすびにした。

そして、デザートのりんごは別の容器に入れた。