あたしは沙耶の耳から携帯を取ろうと手を伸ばした。

沙耶は慌てて電話をきった。


「なんで?」


「だって……」


あたしは昨日の出来事を思い返す。


「だって、卓巳君はただ……やりたくて、あたしを抱いたんだと思う。“好き”だからエッチしたんじゃないんだもん。きっと相手はあたしじゃなくても、誰でも良かったんだよ。あんなの彼にとったら遊びなんだよ。一晩だけの相手でしかなかったんだと思う」


「萌香……」


「それなのに、連絡先調べたりしたら、ウザがられるよ……。一度寝たぐらいで、本気にすんなよ……みたいに迷惑がられたら嫌だし……。だからやっぱこれでいいの」


話しながら、胸が苦しくて泣きそうになってきた……。


頭ではわかってるのに……

それでも、ほんのちょっとだけ……

もう一度会いたかったな

……なんて

なんでそう思ってしまうの?



「萌香?……ひょっとして……」


その時、沙耶の手の中で携帯が鳴り響いた。


「あ……優一君だ」

沙耶が携帯の画面を確認して呟く。


「さっきのすぐ切ったつもりだったけど、着信残っちゃったのかな。とりあえず出るね……?」


沙耶はあたしに確認を取ってから携帯を耳にあてた。


あたしの気持ちを配慮してくれたのか、「昨日はどうもー」なんて当たり障りのない会話をしている。

あたしはそんな沙耶の様子をぼんやり眺めていた。


「えっ? あ……うん、今一緒にいるけど?」


なぜか沙耶がチラリとあたしを見る。

そして「萌香に替わって……だってさ」と、あたしに携帯を差し出した。


いったい優一君があたしに何の用があるんだろう……。

不思議に感じながらも沙耶から受け取った携帯を耳にあてる。


「もしもし?」


一瞬の間……それから。


《あ……萌香チャン?》


耳元で囁かれたその声には聞き覚えがあった。