不機嫌でかつスイートなカラダ

「卓巳君……」


「萌香チャン、今日……泊まり、無理?」


ずるい……そんな甘えるような声で囁かれたら。

答えなんて一つしかないよ。

あたしは卓巳君の胸からそっと顔をあげた。

なぜか胸がキュンと音を立てて、涙腺が緩む。

目がうるうるしちゃう。


「あたしも……帰りたくない」


卓巳君は一瞬目を丸くして、それから天を仰いではぁ……とため息をついた。


「まいった。なんでいちいちそんな可愛いんだ」


「え……?」


「萌香チャンの目……ヤバいって」


「あたしの目……?」


「自覚ねーの? なんですぐそんなに潤むんだよ」


「え……。ああ……」


あたしは確かに涙腺が弱い。

ちょっとしたことですぐに目が潤んじゃうんだ。


「その目、反則だって。オレ……その目にめちゃくちゃ弱いんだよなぁ……何度そのせいで理性飛ばしたか……」


「え……えええええ? 理性?」


「オレらさ……毎回毎回、エッチしてばっかだったじゃん。女の子ってこういうの嫌かなぁ…って気にしてたんだけどさ。萌香チャンに見つめられると、ダメだ……って思ってても止めらんねーの。最初にホテル行った時もそうだったし。しまいには、貧血で倒れたばっかの萌香チャン抱いちまうし……。オレ野獣かよ……みたいに思ってさ。ほんと最低だなぁ…っていつも反省してた」


そんなこと考えてたんだ。

あたしが貧血で倒れた後に抱かれた時の『オレ……最低だな……』って言葉には、そんな意味があったんだ。


「だからさ。今日はエッチなしにしよう」


「え……?」


「今夜は健全に過ごそう!」


卓巳君は自分に言い聞かせるようにそう言うと、うんうんと一人で納得してそのまま歩き出した。


あたしは卓巳君のコートの裾をキュっと握って彼の動きを止める。



「ダメ……」