「で、どーすんの? 関口卓巳とつきあっちゃうの?」


「へ?」


沙耶の言葉に驚いた。

付き合う……なんて考えてもなかった。

だって……


「アドレスも交換してないし……」


考えてみれば、彼のこと何も知らない。

知っているのは名前と……大学と……年齢ぐらい……かな。

それなのに、いきなり体を重ねて、お互い何事もなかったかのように別れた。

もちろん、携帯のアドレスすら訊いてもらえなかった。


「きっともう会うこともないよ……」


ため息とともに、思わずそんな言葉が口から漏れていた。


「そうでもないんじゃない? ガッコも近いんだしさ」



卓巳君とあたしの通う大学は電車で駅二つの距離。

確かに、偶然出会うこともあるかもしれないけど……。


「そんな簡単に会えないよ、きっと」


「ん-……」


沙耶は両手を組んで考え込んだかと思ったら、おもむろに携帯を取り出した。

そしてカチカチといじりだす。


「何してんの?」


「あたし、昨日のコンパで優一(ユウイチ)君と番号交換したんだよね。ヤツから、関口卓巳の連絡先教えてもらえばいいじゃん?」


「優一君?」


あたしは昨日のメンバーを思い返す。


「ほらっ。萌香の前に座ってたヤツ」


「ああっ」


思い出した。

あたしに「不感症?」って訊いてきた人だ。


アドレスから優一君の番号を探し当てたのか、沙耶は携帯を耳にあてる。


あ……だめっ。


「やだっ。……やっぱやめて」