息がかかるほど近づいていた優一君の顔を、あたしはまじまじと見つめる。


信じられない……。

あたし、そんな風に思われてたんだね。


胸に何かがこみ上げてくる。

うれしくて……なのに、なぜか泣きそうになっちゃう。

あ……ダメだ。

あたしはうるうるの瞳で、優一君を見つめていた。



《だあああああああ! もう!》


前方から聞こえる卓巳君のその声に、あたしはビクンと体を震わす。

そのタイミングで優一君があたしの肩からパッと手を離した。

ステージの方に視線を向けたあたしの目には信じられない光景が映った。


卓巳君は側に置いてあった小道具のバラの花を手に取ると、さも当たり前という感じでステージを降りてしまった。


当然、まだ劇は進行中だ。


共演者も観客も……あたしを含め、ここにいる全員が目を点にして、口をポカンと開けたまま、卓巳君の行動を見守っている。

ただ一人、優一君だけはお腹を抱えてゲラゲラ笑ってる。


卓巳君は客席中央の花道をずかずかと進みながらこちらに向かってくる。


「た、卓巳君?」


卓巳君がどんどん近づく。


あきらかにあたしに向かって歩いてきてるよね……。

その表情は、なんだか怒っているようだった。


卓巳君……?

なんだか怖いよ……。

とうとう、卓巳君はあたしのすぐ目の前に立つ。

怒られるのかとあたしは体を固くして身構えた。


だけど次の瞬間、あたしの体は、すっぽりと彼に抱きしめられていた。


「触んな。……これ……オレの」